2015年4月13日月曜日

【カフカの箴言66】地上と天国の頚城(くびき)

【カフカの箴言66】


【原文】

Er ist ein freier und gesicherte Bürger der Erde, denn er ist an eine Kette gelegt, die lange genug ist, um ihm alle irdischen Räume frei zu geben, und doch nur so lang, dass nichts ihn über die Grenzen der Erde reissen kann. Gleichzeitig aber ist er auch ein freier und gesicherter Bürger des Himmels, denn er ist auch an eine ähnlich berechnete Himmelskette gelegt. Will er nun auf die Erde, drosselt ihn das Halsband des Himmels, will er in den Himmel, jenes der Erde. Und trotzdem hat er alle Möglichkeiten und fühlt es; ja, er weigert sich sogar, das Ganze auf einen Fehler bei der ersten Fesselung zurückzuführen.


【和訳】

彼は、この地上で自由であり且つ安全を保障された、地上の市民である。といふのは、ある鎖につながれてゐて、その鎖は、すべての地上の空間を彼に与えるに十分であるからであり、しかし、その長さは、地上の数ある境界を越えない限りに於いて十分な長さであるのだ。しかし、同時に、彼はまた、自由であり且つ安全を保障された、天国の市民でもあるのだ。といふのは、同様に計算された天国の鎖につながれてゐるからである。もし彼が地上に行きたいと思へば、天国の首輪が彼の首を絞め、もし天国に入りたいと思へば、地上の首輪が同じことをするからである。そして、それにも拘はらず、彼は、すべての可能性を持ってをり、このことを感じてもゐるのだ。何故ならば、そう、最初に頚城(くびき)を受けたときに、この全体を、一つの失敗のせいに帰着せしめることを拒否さへするからである。


【解釈と鑑賞】

灰色の領域に棲む人間の日常を描いた散文です。

「その鎖は、すべての地上の空間を彼に与えるに十分である」といふ意味は、鎖がついてゐるが、この男が歩き廻はり動き廻はる範囲では、その鎖は十分に長いので意識されないといふのです。

すべての可能性があるといふこと、これが灰色の世界棲むんでゐるといふことである。

これが、愚かな人間の現実の姿であることを、カフカは見抜いて、このような散文に仕立てたといふことになります。




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