2014年3月29日土曜日

【カフカの箴言9】


【カフカの箴言9】


【原文】

A. ist sehr aufgeblasen, er glaubt, im Guten weit vorgeschritten zu sein, da er, offenbar als ein immer verlockender Gegenstand, immer mehr Versuchungen aus ihm bisher ganz unbekannten Richtungen sich ausgesetzt fühlt.



【和訳】


Aは、非常に高慢ちきな人間であり、善において、ずっと先に進んだと思っている。というのも、この男は、明らかにいつも誘惑する側の対象として、いつももっと多くの誘惑に身を晒していると、本人にはこれまで全く見知らぬ方向から来るそのような誘惑を感じているからである。


【解釈と鑑賞】

カフカが、このような男をみて抽象化した箴言なのでしょう。

きっと、身近にいた人間に違いありません。しかし、この人間にとっては、カフカがVersuchungen、誘惑の数々と表したことを、実際には誘惑とは思っていないことでしょう。

むしろそうではなく、それを生きることだと勘違いしていると、カフカは言いたげです。

カフカの人生は、この人間とは全く逆の人生であったのではないかと推測します。

この箴言には、善とはそうではない、善とは何かを考えるカフカがおります。

誘惑ではないものには、どのようなものがあるのか、カフカに尋ねてみたいものです。


そうすると、カフカの禁欲的な面を知る事ができるでしょう。

【ショーペンハウアーの箴言9】


【ショーペンハウアーの箴言9】


【原文】

Das Genie wohnt nur eine Etage höher als der Wahnsinn.



【和訳】


天才とは、狂気よりもただ1階層分だけ上に住んでいる人間のことである。



【解釈と鑑賞】


これも、ショーペンハウアーらしい箴言です。

日本語ならば、天才と気違いは紙一重というところでしょうが、日本語のように並列、並置ではなく、垂直方向に立てて、天才と狂気の関係を述べています。

この一行の意味は、天才は狂気をそのうちに抱いている者だという意味でもありましょう。それは、ショーペンハウアー自身のことでもあるということができます。

意志と表象としての世界全4巻を最後迄読んで、一番最後にただ一言、Nichtsと書き付けたショーペンハウアーに驚いたわたしは、この人間が何故この浩瀚な体系的な書物を書いたのか、その理由が解りました。たったこのNichts、無という言葉を最後において、それまで叙述して来た宇宙も、その森羅万象もすべては無だと言いたいがために、書いて来たのだということなのです。

これは、普通のひとにはなかなかできないことでしょう。

Der Wahnsinnを、狂気と訳しましたが、それを譬喩(ひゆ)ととって、狂人と訳しても、いいと思います。しかし、狂気の方が、更に生々しい感じが致します。


2014年3月15日土曜日

【カフカの箴言8】


【カフカの箴言8】


【原文】

Er ist wie der Kampf mit Frauen, der im Bett endet.



【和訳】

彼は、寝床(ベッド)で終わる(果てる)女性たちとの戦いのようである。


【解釈と鑑賞】

この主語である彼がだれかはわかりません。いづれにせよ、女性との戦いをしている男性であるのです。

男性一般と解してもよいし、あるいは、この彼はカフカ本人だと解しても間違いではないかも知れません。

ベッドで終わるというのは、ベッドにまで共に至るとそこで戦いが終わるという意味でもあれば、また括弧の中に訳したように、男性が射精して終わるという意味もかけて読むこともできます。

この文の構文からだと、彼は戦いである(ようだ)という等式があり、とはいへ、この等式のありかたは、普通に考えて、何か一寸破格のところがあります。


【ショーペンハウアーの箴言8】


【ショーペンハウアーの箴言8】


【原文】

Genitalien sind der Resonanzboden des Gehirns.


【和訳】


生殖器は、脳の共鳴、共振、反響、同感の床どこ、基礎、土台である。


【解釈と鑑賞】


これも全くこの通りの箴言だと思います。Resonanzの訳語をみな一斉に充てがってみました。

理性の宿る脳味噌と、感性の極である生殖器と。生殖器が脳の基礎だというのが、いかにもこの哲学者、意思と表象の世界を説いた哲学者らしい。

生殖器があって、生命は繁殖するからですし、それによって個体が生まれ、それぞれの苦しみが、互いの意志との葛藤、衝突によって生まれるからであり、それゆえに、ものを思考するようになるからでしょう。体系だてて思考するのは、理性の働きです。






2014年3月8日土曜日

【カフカの箴言7】


【カフカの箴言7】


【原文】

Eines der wirksamsten Verführungsmittel des Bösen ist die Aufforderung zum Kampf.



【和訳】

一番効果のある、悪事のする誘惑の手段のひとつは、闘いへの挑戦である。



【解釈と鑑賞】

保険の世界に生きた優秀なビジネスマンであったカフカが、これをどのような場合に思ったのか、興味のあるところです。

保険という、人間の生命のことと、それを失うことを秤にかけて計算をする商品を販売する世界で、このような警句を思うことは、屢々、あったことなのでしょう。

見かけ上、この警句は、保険とは何の関係もないように見えますけれども。




【ショーペンハウアーの箴言7】


【ショーペンハウアーの箴言7】



【原文】

Moral predigen ist leicht, Moral begruenden schwer.



【和訳】


道徳を説く事は易しい、道徳の根拠を言うことは難しい。



【解釈と鑑賞】


これも全くこの通りの箴言だと思います。

この説明ができないことを説明することを、わたしたちは日々、その日常の根底において、現実、否応のない現実によって、要求されているのではないでしょうか。

そして、言葉に出来ないことに、いつも苦しんでいる。

二つ目の文を読んで、その根拠を論拠づけるには、あることに徹した人生が求められることでしょう。そのような人間によってのみ、道徳の根拠の説明がなされる筈だと、わたしは思います。その人間が、しかし、どんなに非道な人間であっても、それが人間である限りにおいては。


2014年3月2日日曜日

【カフカの箴言6】


【カフカの箴言6】


【原文】

Der entscheidende Augenblick der menschlichen Entwicklung ist immerwaehrend. Darum sind die revolutionären geistigen Bewegungen, welche alles Frühere für nichtig erklären, im Recht, denn es ist noch nichts geschehen.



【和訳】

人間の成長の決定的な瞬間は、いつも継続してあるということ。それ故に、革命的な、精神的な運動が、総てそれ以前のものを無価値だと宣言しても、それは正しいということになり、それは何故かというと、今だに何も起きていないからなのである。


【解釈と鑑賞】

これは、当たり前と言えば、当たり前のことを言っているに過ぎない箴言かと思います。

しかし、よく考えてみれば、その手の運動は、この程度だということを言っているのかも知れません。

即ち、時間が瞬間の連続であり、未来のことは今起きてはいないので、何でも言えるということ、未だ生起していないという限りに、それは正しいということ。

しかし、正しいと書くカフカの眼は、辛辣な眼であると、わたしは感じます。それでは、革命など起きないし(革命が正しいものだと仮定しての話ですが)、また精神など欠片(かけら)もない運動だということになるでしょう。




【ショーペンハウアーの箴言6】


【ショーペンハウアーの箴言6】


【原文】

Ein Weiser ist man nur unter der Bedingung, in einer Welt von Narren zu leben.


【和訳】


人が一個の賢者であるというのは、ただ、愚者の世間の中で生きるという条件下で、賢者なのである。


【解釈と鑑賞】


この箴言を読むと、実は愚者も賢者もいないと言っているように聞こえます。


また、賢者と愚者は相対的な問題だとも言っていることがわかります。

面白いのは、ショーペンハウアーらしく、賢者を絶対視せずに、相対化しているというところ、これが、ショーペンハウアーらしいところです。

しかし、以外にもここのところに、人が生きる道を指し示しているのではないかと、わたしは思います。即ち、ひとに必要とされるという道を。

しかし、愚者にだけ、愚者にばかり必要とされるという人生も、疲れる話だと思います。