【カフカの箴言32】
【原文】
Die Krähen behaupten, eine einzige Krähe könnte den Himmel zerstören. Das ist zweifellos, beweist aber nichts gegen den Himmel, denn Himmel bedeuten eben: Unmöglichkeit von Krähen.
【和訳】
鶴たちは、こう主張する。唯一の、比類なき鶴であれば、天を破壊することができるかも知れないと。これは、疑いないことだが、しかし、天に対して何も証明するものではない。というのも、天とはまさしく次のことを意味するからである:鶴たちの持つ不可能性
【解釈と鑑賞】
カフカの住んだ土地にも、鶴がいたのだろうか。
或いは、いなかったとしても、鶴をどのように考えていたかを考えることはできる。
わたしにとっての鶴の形象(イメージ)は、美しい鳥であるというもので、破壊とは無縁の鳥だが、カフカにとっては、どうも少し違うようである。
天を、或いは天国を破壊すると考える鶴なのだ。
ここで、わかることは、カフカの鶴とは、
1。天高く飛べるということ
2。破壊する能力を持っていること
このふたつが、鶴という言葉の中にあるということだ。
カフカがここで言っていることは、何か働きかけようというその対象に対して、その働きかける者は、それが正しいことだと証明しなければならないということである。
鶴にはそれができない。何故ならば、天高く飛ぶということ、その能力そのものが、鶴たちのその能力の無さ、鶴達の不可能性を意味しているからだ。
これは、地上のわたしたちに、翻って、この考えを適用することができる。
地上に人間がいようとすることそのことが、既にそうしていることの無意味、不可能性を示しているのだということになるだろう。
カフカというひとのものの考え方の好適な例が、この箴言だと思う。