2023年3月4日土曜日

西村幸祐著『日本人だけが知らなかった「安倍晋三」の真実』を読む

西村幸祐著『日本人だけが知らなかった「安倍晋三」の真実』を読む

安倍晋三といふ名前に括弧がついてゐるのは、いふまでもなく所謂(いはゆる)といふ意味であり、所謂安倍晋三といふ意味は、世に流布して来た此の政治家像が実際と異なるといふ意味である。この所謂安倍晋三といふ政治家像は、すべて日本のマス・メディアとマス・メディアと同じ報道の仕方を共有してゐるネット・メディアの一部が流布させた像であるので、この著者の題名の意味する意図は、この政治家はそのやうな政治家ではないといふ意図であることが判る。

 副題が「蘇った日本の「世界史的立場」」とあることで、メディアが覆ひ隠して世間の目から見えないようにした安倍晋三といふ人間の業績は、日本の「世界史的立場」を諸国に実績を以て示した国際的な政治家だといふ意味であり、この主題の裏の意味は、それ故に「日本のメディアだけが知らなかつた安倍晋三の真実」を明らかにすることにあるといふことになり、内容は実際にその通りの内容になつてゐる。メディアの報じなかつことは、大抵の国民は知らなゐからである。このことを帯文に云ふ「世界的に評価される不世出の政治家の功績が、自国メディアに無視される奇妙」といふ事実の通りに、海外のメディアは知つてゐたが、従ひ海外の国民は知つてゐたが、しかし日本のメディアだけが知らなかつたので、日本の国民に向けて暗殺後の今、知られるべき安倍晋三像を著したのが、本書である。売れ行きが好調で既に三つ目の増刷になつてゐるのは、真実の像を知りたいといふ日本人の慾求の多いことを暗示してゐる。だから、この本の本当の題名は、いふまでもなく皮肉を籠めていふのであるが、安倍晋三の名前に括弧抜きで「日本のメディアだけが知らなかつた安倍晋三の真実」といふ題名なのである。以下、特にマス・メディアの騒音のために国民に届きがたかつた此の宰相が解決しようと努力した政治的懸案事項を箇条書きに此の本の中から抜粋をして、この政治家の死を惜しむことにしたい。何よりも今の日本の狂気は、これだけ外交の世界で成功を収めてきた日本の宰相が、国内にこそ最も多い敵を抱へてゐて、内政の改革と改善のために其の外交の成果を全く活用できなかつたことである。まづ外交上の成果を述べ、次に政治的な懸案事項を列挙したい。これは死者の鎮魂のためである。これが単なる書評に留まらぬ此の一文の第一の目的であるが、同時に私たち日本国民の解決すべき問題は何かを自覚するためでもあります。

1。外交上の成果

2。政治的懸案事項

1。外交上の成果 この政治家の世界史に残る優れた業績は何よりも外交にあつて、第二次組閣の時に「国際NPOの言論機関である「プロジェクトシンジケート」のウエッブサイトに発表した」英語論文『Assia’s Democratic Security Diamond』(アジアの民主的安全保障ダイヤモンド)通りに外交を展開して成功を収めたことを第一に挙げなければならない。トランプ大統領はこの論文に書かれた戦略をそのままアメリカの戦略と軍事力の名前に「インド・太平洋」といふ呼称冠して今日にアメリカは至る。

 これは日本のマス・メディアが一切報道できなかつたことである。何故なら「日本の「世界史的立場」」について、歴史認識を欠いたマス・メディアにはそもそも理解ができなかつたからであるし、日本独自の歴史の存在を認めることのできないメディアには、従ひ、日本の国を世界史の中に置いて考へることが出来ないので、対外的な外交の成果が目に入らないからである。

 だから、海外の偏向した報道を右から左に流すだけで、そこに報道者としての言葉に対する責任が欠落してゐるわけだし、自分の無責任を否定すると見える不利な事実には、海外からであれ、目を瞑り、報道せず、また国内からの事実であれこれもやはり同様の理由で目を瞑り、報道をしない。即ち、自分の妄想を報道と錯誤して垂れ流しをしてゐるのがこの80年の日本のマス・メディアなのである。その実態が著者の筆によつて巧まずに現れてゐるのは、これまでの反日の構造を知悉し論じ尽くして来た著者ならではの力量のそのままの現れと思はれた。要するに、日本のメディアの所謂報道には分析が欠落してゐるといふことが明瞭である。何かマス・メディアの腑分けをして腹腸(はらわた)を全部外へと引き摺り出したといふ趣のある著作である。さうであれば、これは「マス・メディア解体新書」と題しても可笑しくない一冊であつた。

 前者即ち海外からの安倍晋三といふ政治家への業績へについての称賛の言葉と国家としての弔意の表明を報道することすら思はず、国内での国民の弔意と哀悼の表現と祭壇へと並ぶ弔問客の列の長さと人数を報道することはなかつたのである。その代はりに、故人を貶める報道に徹した。それが手段としての統一教会の問題であるが、この報道ぶりはモリ・カケ問題といはれたデッチ上げの報道もーもしこれを報道といふならばであるがー同じであるので、そこには偏つた悪意があるといはねばならない。一体何故この政治家が暗殺されねばならなかつたのかといふ原因に関する考察、それは推理でも良いが、そのメディアに必要な分析が欠落してゐるのは、以上のせいである。

さて、ここまで書いて来て、愕然としたのであるが、この作品の内容は以上のことをもつと細かく事実を拾ひ上げ整理をして、それぞれの事件に関する解釈をつけて最初から最後まで、この宰相の時代がどのやうな時代であり、どんな内閣を率い、どのやうな祭り事を執行して来たのかの記録となつてゐるのであるが、それを此処で反復したとて書評にはならぬのである。それでこのやうにすることにしたので、この方針の転換をご了解願ひたい。それは二つの引用をそのまま同書から致すことである。著者の結論は第一に次のものである。第二の結論は、私の結論で、この「日本の世界史的立場」の世界史に残る重要性、即ち世界文明史に残る分岐を示す出来事を書評の中にやはり引用として残して置きたいといふ思ひを私は隠すことができないからである。新書版であるのに、内容は一冊の背表紙の厚い単行本に値してゐる。

1。著者による第一の結論

「安倍晋三の世界史的立場

 安倍晋三という人物が日本の政治家として類稀な戦略家で、外交日本を牽引したことは厳然とした事実である。と同時に、本書でこれまで述べてきたように、日本の歪(いびつ)なメディア環境や政治状況を身をもって、それこそ彼の命と引き換えに国民に示したということを、いくら評価してもし過ぎることはないだろう。

 政治的な実績で言えば、残念ながら達成し切れなかった部分もたくさんある。拉致問題、憲法改正、デフレ脱却、と挙げればきりがない。また、アベノミクスでは第三の成長戦略がかなり物足らないものになった。平成二年(1990)からのいわゆる(失われた三〇年)を取り戻すためのIT戦略、全く新しい業態の開発の実現にまで至ることがなかったのが残念だ。その結果、批判された消費増税によってデフレ脱却が中途半端なままになった。

また、外交面でも不満な政策はもちろんあったが、やはり特定秘密保護法と平和安全法制(安保法)は非常に大きい変化を日本にもたらした。

 これらの法律が施行されたからこそ、その後の海外との連携がかつてないほど深まった。日本は西側先進国のG7という枠組みで唯一のアジアの、有色人種の国であるが、G7のなかで、まさにアジアのキー・プレイヤーとして機能することかが可能になり、日本の国際的ひょうかを敗戦後七十七年で最高に高めたのである。あとで詳述するが、それこそが(安倍晋三のレガシー)だと自信を持って断言できる。」(同書224ページから225ページ)

2。評者による第二の結論

この箇所を読んで、私は安倍晋三といふ総理大臣が伊勢志摩サミットの前に十分な時間をとつてG7の主要西欧米諸国の国家元首一人一人に現地の大使館を通じて、この神宮といふ名前を持つ伊勢神宮および天皇家と日本の歴史について十分な説明をさせたに違ひないと思つた。そのやうな配慮がなければ、如何に伊勢神宮の境内の神韻縹緲たるものを欧米の首脳が感じたとしても、このやうな的確なそれぞれの自分の言葉で記帳することはできなかつたであらうと感じたからである。伊勢神宮に参拝した各国首脳の感想は次のものである。私たち日本人がみづからの身を顧みる縁(よすが)とされたい。

「各国首脳はそのときの印象を以下のように記している。

《幾世にもわたり、癒しと安寧をもたらしてきた神聖なこの地を訪れることができ、非常に光栄に思います。世界中の人々が平和に、理解しあって共生できるようお祈りいたします。》(アメリカ バラク・オバマ大統領)

《日本の源であり、調和、尊重、そして平和といふ価値観をもたらす、精神の崇高なる場所にて》(フランス フランソワ・オランド大統領)

《ここ伊勢神宮に象徴される日本国民の豊かな自然との密接な結びつきに深い敬意を表します。

  ドイツと日本が手を取り合い、地球上の自然の生存基盤の保全に貢献していくことを願います。》(ドイツ アンゲラ・メルケル首相)

《日本でのG7のために伊勢志摩に集うに際し、平和と静謐、美しい自然のこの地を訪れ、英国首相として伊勢神宮で敬意を払うことを大変嬉しく思います。》(イギリス ディビッド・キャメロン首相)

《このような歴史に満ち示唆に富むすばらしい場所ですばらしい歓待をいただきましてありがとうございます。主催国である日本と我々全員が、人間の尊厳を保ちながら、経済成長及び社会正義のための諸条件をより力強く構築できることを祈念します。》(イタリア マッテオ・レンツィ首相)

《静謐と思索の場。そして日本についての深い洞察。どうもありがろう!》(EU ドナルド・トゥスク欧州理事会議長)

《この地で目の当たりにした伝統と儀礼に敬意を表す。》(EU ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長)

(伊勢神宮 ISE JINGU https://www.isejingu.or.jp