2015年5月23日土曜日

【カフカの箴言73】自己の食卓との差異を喰らふ



【カフカの箴言73】


【原文】

Er frißt den Abfall vom eigenen Tisch; dadurch wird er zwar ein Weilchen lang satter als alle, verlernt aber, oben vom Tisch zu essen; dadurch hört dann aber auch der Abfall auf.


【和訳】

彼は、自分の食卓の塵(ごみ)を貪り食ふ。といふのも、成程、それによつて、少しの間はみなよりも満腹になるからであるが、しかし、上にある食卓から取つて食べたといふことを(それが習慣であるにせよ、その習慣を)忘れるからである。といふのも、それによつて、すると次に、しかし、その塵(ごみ)もまた、止む(終わりになる、無くなる)からである。


【解釈と鑑賞】

Abfallを塵(ごみ)と訳しましたが、普通はこの名詞が塵を意味するときには大抵複数形で使われます。

さうであれば、これを差異と訳してもいいやうに思ひますが、それであるとまた日本語になりません。

塵=差異だと思つて、この文をお読み下さい。

これは、このまま安部公房の世界にいても少しも可笑しくない箴言になつてをります。


大事なことは、カフカが、自分の食卓との距離、差異、その垂直方向の落差を食らふといつてゐることです。この垂直方向の落差を0にすることが、おそらくは、さうして間違いなく、カフカが小説を書くといふことであつたのです。

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