2012年7月28日土曜日

安部公房の「けものたちは故郷をめざす」を読む


安部公房の「けものたちは故郷をめざす」を読む

これは昭和32年(グレゴリウス歴1957年)に初刊の作品。

大東亜戦争敗北後の満州を、日本に向けて脱出を図る日本人の若者、久木久三が主人公の長編小説です。

高という日本人との混血の正体不明の大陸人(支那人か朝鮮人か不明)と一緒の逃避行を描いたもの。

最初と最後に、安部公房に特有の塀というイメージが、主人公を受容れない何かの象徴として、現れます。この塀という形象は、その後も繰り返し、変形して安部公房の小説の中に姿を現します。

曰く、壁、曰く砂、曰く迷路、曰く、箱。

その間描かれるのは、餓えと寒さの連続。そうして、人間の互いの心理の変遷です。

主人公が最後に日本の港に着いても、足枷で船に繋がれていて上陸できないという最後は、上に述べた塀のイメージ、形象と重なって、その後の安部公房の小説の日本文学における独特の位置を示しているのだろうか。

埴谷雄高と同じで、安部公房も一人屹立する孤峰である。

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