2015年10月13日火曜日

超短篇1:月の呪文


月の呪文

古謡に《月は鏡なり、鏡は月なり》とあり......

ある年の十五夜に起きたことである。

白い背黄青鸚哥(せきせいいんこ)を飼つてゐる。

払暁に向かひ、眠りが浅くなりゆく時に此の鳥の啼き声を聞いた。奇妙な夢なりき……

もはや寿命の終はりが近いのであらう、我が家に来て7年になる。この頃は、歩くのもよろばふ感じがあつて、急に体を動かすなどすると、時折肩から落ちることがある。

この夢で、白い鳥はわたしの体から落ちて、落ちると裸になつてゐて、羽毛の皮はポロリととれ、小さな剥き出しの鳥になつてしまつてゐた。奇妙なことに、顔は羽毛のふさふさとしたままの、白い鳥の顔を被つたといふ顔である。

わたしは驚いて、裸の鳥を拾ひ上げた、手のひらの上で、生きてゐるので安心をする。下を見ると、羽毛の毛皮が落ちてゐて、鳥の毛皮は衣裳のやうに其のままに、中が虚(うろ)になつて、落ちてゐる。

鳥の仮面を被つた裸の鳥を、その衣裳に戻してやらうと、それを拾つて、裸の鳥に被せた、そこで目が覚め、いや、目が覚めたかと思ふと、白い鳥は既にして、再び我が肩にとまつている。

わたしは、白い背黄青鸚哥である。

今かうしてゐても、わたしは肩の上にとまつてゐる。

さうして、また一年を待つている、月の呪文を啼きながら……



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